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よこはまSDGs④ 木糸で、暮らしに馴染むアートを── 横浜美術大学 × ナイス株式会社『木糸』プロジェクト


    建築資材流通を担うナイス株式会社(横浜市鶴見区鶴見中央)は、2024年11月27日・28日に「木と暮らしの博覧会」を開催しました。この博覧会には、全国各地から建材や住宅設備メーカーが集結。多彩な展示が繰り広げられました。

    博覧会の見どころのひとつとなったのが、横浜美術大学(横浜市青葉区鴨志田町)による展示です。ナイス株式会社と横浜美術大学は、2024年3月より産学連携プロジェクトを行っており、博覧会はその成果の披露の場となりました。大学専用ブースには、同社が提供する木糸を使った作品が多数展示されただけでなく、他の企業・団体のブースでも、小物や装飾として作品が活用され、会場全体に彩りを添えました。

    また、28日にはテキスタイルデザインコースの高瀬ゆり先生と3名の学生が登壇し、作品紹介や産学連携の取り組みについての発表が行われました。


    「木糸(もくいと)」とは、木で作られた糸を指し、材料には間伐材が用いられています。木材を溶かして繊維を取り出して和紙に加工した後、細く割いて糸状に仕上げます。和紙の割く幅を変えることで色合いに変化を持たせ、通常の糸のように使うことも可能に。環境に優しく、持続可能な社会に貢献する素材として注目されています。

    木糸は学生にとっても初めて扱う素材。はじめはその扱いに苦戦しました。
    授業やアルバイトの合間を縫いながら、アイデアスケッチを描いたりミーティングを重ねたりするものの、なかなか方向性が定まりません。

    そこで行われたのが、織り機を使った「サンプル織り」です。まずは木糸を知るために、テキスタイルの基本的な織り方を試しながら、サンプルを作成していきました。

    学生さんたちが普段扱うウールや綿とは違い、切れやすく繊細な木糸。扱いづらさに苦労しつつも、少しずつ木糸に親しんでいきました。

    暮らしに豊かな表情を与えるファブリックたち

    壁面には、テキスタイルデザインコース3年生の川添さんが制作したラグマットをはじめ、アートとしても楽しめる作品が展示されています。珍しい手動式タフティングなどを用い、木糸とウールを混ぜて打ち込むことで、さまざまな質感を表現しています。木目のような美しい色合いや質感のグラデーションが広がるラグマット。このグラデーションが、作品テーマと深く結びついています。

    「木材の木目は、切る場所や種類によって全く違った模様になります。それが人の感情にも似ていると感じました。形や色が異なるさまざまな感情が混ざり合うように、木材もそれぞれ違う。木は生活空間に必ず存在する素材なので、その温かみを感じてもらえるような、人に寄り添う作品を作ろうと思いました」(川添さん)

    生命のサイクルを感じるインスタレーション

    展示場内の通路から一際目立つ存在になっていたのが、絵画コース3年生渡邊さんのインスタレーション作品「再構築(リビルド)」。

    「無価値と思われがちな素材をアートによって新たな価値へと再構築することがテーマです。」(渡邊さん)

    端材をいくつも折り重ねて作られたこちらの作品。異なる形状を持つ形のバラバラな端材が一つの空間で構成されて生まれ変わっています。間伐材から作られている木糸が、さまざまな製品に姿を変えて生まれ変わる様子と重なります。

    同大学のテキスタイルデザインコース教授・高瀬先生のやわらかな作品との対比が心地よく、森の木々から糸が生まれるという命のサイクルを感じる空間となっていました。

    木糸だから表現できる、柔らかさと木の温もりを感じるインテリア雑貨

    テキスタイルコース3年生の村田さんが制作したランプシェード。

    「初めて木の糸を見た時、その細さや硬さに興味を持ちました。並べた時の透け感を活かせば、面白い作品になるのではと思いました」(村田さん)

    木糸を水で溶ける布に挟み、ミシンでステッチで固定した後、布を溶かして仕上げました。ランプシェードの丸い形は、木の温もりや柔らかさを表現したもの。何度も試作を繰り返し、完成させました。

    上記でご紹介したのは、数ある作品のほんの一部です。他にもラグやクッション、タペストリーなど、たくさんの個性豊かな作品が集まりました。完成度の高さに来場者からは「商品化しても良いのではないか?」と声が上がったほど。普段使ったことのない素材に触れ、学生さんにとっても貴重な機会となりました。

    最後に高瀬ゆり教授がテキスタイルの起源に触れながら、セミナーは締めくくられました。
    「古代より、人々は植物を身に纏い、自然と共に生活してきました。木の糸は、人と自然、そして人と人とのつながりを象徴する素材です。現代の地球が抱える危機に対して、私たちもまた、古代の人々のように自然に寄り添い、共存する思いが必要だと感じています」


    〈ナイス株式会社管理本部 杉野課長より本プロジェクトについて〉

    今回の産学連携プロジェクトは、弊社にとっても大きなチャレンジとなりました。限られたスペースでシーンを提案する住宅・不動産の展示会では、小物は空間作りに欠かせない要素です。そのため今回は「住宅のシーンの中で使える作品を作ってほしい」とリクエストをさせていただきました。学生さんの自由な発想を大切にしたいと思い、細かい指定はせずお任せしましたが、アート性がありながら暮らしにも馴染む素晴らしい作品を作っていただき、大満足です。来場者からも「面白い取り組みですね」といったお声をたくさんいただきました。想像以上の素敵な作品を作っていただき、本当にありがとうございました。

    日常に溶け込むアートの新しい可能性を探ると同時に、持続可能な社会への一歩ともなった今回の産学連携事業。木糸が持つ自然の温かみは、私たちの暮らしに新たな彩りを与えてくれるでしょう。

    ◇取材・執筆:辺見美咲 ◇イラスト:駒込 ◇デザイン・編集:ココハマ.編集部


    ◯NICE株式会社
    https://www.nice.co.jp/

    ◯横浜美術大学 テキスタイルデザインコース
    https://www.yokohama-art.ac.jp/department/textile

    ココハマ.では、横浜のSDGsをこれからも取り上げます。


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